落ち着かない学級を引き継いだ時には、保護者さんからよく「反抗期」という言葉を聞きます。家庭で子供が不可解な反抗をするのだそうです。
例えば。
「11時まで絶対に寝ない!」とか「学校に持っていく文房具を全部買い替える!」とか言い出したり、眠くて倒れそうになってまでゲームをしていたり、というような大人からすると許せない言動が増え、注意しても全く聞かない。いつも不機嫌でイライラしている。何があったのか聞いても「放っておいてよ」と話してくれない。あまりにも話が通じないので、保護者さんは「少し早いけれど、反抗期なのかも」と考える。でも、なんだか納得できない。思春期を迎えたというより、そういう成長とはまるで正反対の「赤ちゃんがえり」のような姿。
詳細は異なるものの、似たような話を何度も耳にしました。そして、保護者さんは本当に悩んでるんですよね。
そういう行動は、もしかしたら学級でのヒエラルキーを上げる為の努力かもしれません。民主的ではない学級には上下関係が発生し、封建的な学級風土が生まれてしまいます。なんて書くと難しいですが、簡単に言うと「一部の目立つ子が好き勝手に行動している」学級も、悲しいけれどあるんですよ。
ある程度落ち着いて授業が成立している「普通の学級」では、勉強を頑張っていたり、運動が好きだったり、友達に優しかったりといったことで学級内で認められ、ほとんどの子に居場所ができます。担任に力のある「良い学級」なら、誰もが仲間だと認められ、全ての子に居場所があります。が、残念ながらどちらでもない学級では、一部の目立つ子にだけ居場所があり、ほとんどの子は自分の居場所を確保しようと躍起になっているんです。
目立つ子が悪いわけではありません。その子は、学級に「どういう姿を目指すのか」という価値基準が示されていない中で、子供達が自分の価値基準で行動した結果、たまたま「目立っちゃった子」なんですから。
子供達がもともと持っている価値基準は、幼いモノがほとんど。口が達者だったり、腕力が強かったり、ルールを平気で破ったり、他の子が持っていない物をもっていたり、ゲームの進み具合が上だったり。そんなことで「すごい」とか「いいなあ」と周囲から羨ましく思われる子ばかりが目立っちゃうんです。子供達は、その中でどうにか居場所を作ろうと努力します。だから、喧嘩が増えます。そして、冒頭に書いたような「ルールを破る」「新しい物を欲しがる」という姿に繋がるのです。
「何時に寝てるの?」
「8時半だよ」
「えー!早過ぎ〜(笑)」
なんて言われるから、遅くまで起きてたいんですよ。そこで、嘘をつける子は楽なんですが、嘘をつけない子も少なくないんです。そして、少しでも可愛い持ち物を持っていたい。少しでも早くゲームをクリアして自慢したい。こんなことは、大人からすれば馬鹿みたいですが、子供にはそれなりの必然性のある努力なんです。
そういう子供らしい価値基準は、どんな子も持っていて普通です。ただ、学級内に「それしかない」と不幸なんですよ。どんどんエスカレートしますし、自分ではどうにもできないことも多い。凄まじいストレス。そのストレスを家で発散しているという面もあるでしょう。
というのが、私の見立て。反抗期なんてものではないと思われます。その証拠に、数か月経って学級が落ち着いてくると、そういう子の不可解な反抗はピタリとおさまるのです。
ですから、もしもお子さんがそういう悲しい努力をしていたら、叱るんじゃなく労ってあげてはどうでしょう。私が娘に言うとしたら、
「お前も大変だね。そんなことまで頑張らなくちゃいけないなんて」
なんて感じでしょうか。また、教員という立場から助言しやすいことも多いのです。例えば
「遅くまで起きているって自慢する人も多いけど、大抵は嘘だよ。『俺、12時に寝てる』とか自慢する子はよくいるけど、本当かどうかはすぐに分かるよ。12時とか1時まで起きてる子は、学校では居眠りしちゃうから。学校で起きてられる子は、まあ、嘘というか大袈裟に言ってるんだろうね」
なんて感じです。あなたなりの助言をしてあげてください。
そして、あなたはあなたのままで十分に愛おしい存在なのだ、と心を込めて何度も伝えました。学校で居場所づくりに腐心しているのですから、家ではなんの心配もなく居場所を作ってあげたいじゃないですか。まあ、子供にとっては気休めにしかならないでしょうけれど、逆に言えば、ストレス過多の状態では、気休めは絶対に必要ですから。
どうか、親も一緒になってイライラしないであげてください。お子さんの努力を否定しないであげてください。学級内の子供らし過ぎる価値基準がどれほどアホくさいかを笑いつつ、でも、お子さんの苦しみは笑わないであげてください。逆に深刻になりすぎるのもやめてください。親が深刻になると、お子さんはますます不安になるでしょうから。
そして、お子さんに価値基準を示してあげてください。お子さんに「あなたがどれほど愛おしい存在なのか」を伝えてあげてください。
私が日本の教育を変えたいと願うのは、我が子のためです。我が子があたたかい学級で生活できるようにしてあげたいのです。もちろん、我が子だけではなく、全ての子が。
が、まだまだできていません。すみません。
そして、本当にごめんね。