『学び合い』 流動型『学び合い』 学びのカリキュラム・マネジメント アクティブ・ラーニング

nao_takaの『縦横無尽』

小学校教員なおたかのブログです。『学び合い』(二重かっこ学び合い)を実践しています。単著「流動型『学び合い』の授業作り」を上梓しました。お手に取っていただければ幸いです。

集団を動かす

このブログにも何度か書いたが、集団が動くには「臨界質量」というものがあるそうだ。私はこの本で知った。

少し古い本だし、内容としては100%納得できたわけではないけれど、でも、「いじめ」のメカニズムを数値化する、の話は非常に参考になった。私が集団を動かす際には、この「臨界質量」の考え方を大いに参考にしている。ちなみに、いじめのメカニズムを実証的な研究で明かしたのは、京都大学霊長類研究所の正高信男教授だそうだ。

いじめを許す心理

いじめを許す心理

  • 作者:正高 信男
  • 発売日: 1998/02/06
  • メディア: 単行本
 

 

簡単に言うと、ほとんどの児童生徒は「みんながいじめを止めるなら、自分も止めよう」と考えているため、ある一定数の児童生徒がいじめを止め始めると、学級のほとんどがいじめを止める側に回るようになる、ということだ。逆に言えば、いじめを止める人が少ないと、どんどん傍観者が増え、いじめが継続・増加することになる。この時、重要なのが「みんながいじめを止めるなら、自分も止めよう」と言う時の「みんな」の意識が、個人によって異なるということ。二人いれば止められる子もいれば、五人必要な子もいる。クラスの過半数が止めてやっと声を上げられる子もいる。最後まで止めない子もいる。「これだけの人がいじめを止めれば、いじめを許さないクラスになる。一方、これよりも少なければいじめを見過ごすクラスになる」という分岐点が「臨界質量」。臨界質量は、クラスによって異なる。

この臨界質量は、いじめに関してだけではないと、私は考えている。例えば、大きな声で歌うか歌わないか、授業をまじめに受けるか受けないか。そういう時に、多くの子は「みんながやるなら、やる。みんながやらないなら、やらない」と考えているのだ。

でも、中には周囲など気にせず「誰もやらなくても、自分がやる」という子もいる。ある種のイノベーター。一人でもいじめを止める、一人でも歌を歌う、一人でもまじめに授業を受ける。それを「正しい」と思っていたり「好きだ」と思っていたりすることも大切だけれど、同時に、一人でも進んでいく力が必要なのだろう。取り敢えずそれを「突破力」と呼ぶことにする。突破力は教員にとってプラスの面にだけ使われるわけではない。例えば、授業中に離席をして教室の外に出てしまう、なんていう場合もあるだろう。授業中に大声を出したり、学校に不要な物を持って来たり。マイナス方向への突破力が高い子がいると、教員は焦る。そして、マイナス突破力の高い子にばかり指導してしまいがちだ。

そうなった時に、敏感に反応する子がいる。いわゆる目立ちたがり屋。突破力の高い子のことを、多くの教員は「目立ちたがり屋」だと勘違いしているが、そうではない。突破力の高い子は、目立つことを目的にはしていないが、結果として目立っているだけだ。それを喜ぶ気持ちもあるだろうけれど、目的ではない。でも、最初から目立つことを目的として行動する子もいる。そして、そういう子は、周囲に対する「影響力」を重視する。多くのクラスで影響力を高める方法は、教員に「構われる」ことだ。よく「あの子は構って欲しくて悪いことをする」なんて話を聞くが、そうさせているのは教員なのかもしれない。

教員がクラス内で、「離席をする子」に目を奪われていると、影響力重視の子が真似をして席を立つようになる。そうなると厄介だ。その子の影響力で、離席をする子が出る。臨界質量を超えると、一気に増える。マイナスの行動は「絶対にやらない」という子が多いから、全員が離席する、なんてことはないだろう。でも、クラスの1/4くらいなら十分にあり得るし、そうなったら授業なんて成り立たない。

 

私は度々、「落ち着かない子がいるからといって、そこに目を奪われてはいけない」と言っているのは、突破力が高い子を注目し過ぎて、影響力が高い子まで動かしてしまうことになるからだ。どんなに注意しても、突破力が高い子は止まらない。その子を止めるには、改善すべき点が別にある。

じゃあ、どこを改善すべきなのか。多くの場合、授業だ。離席をする子は、大抵、「だってつまらないんだもん」と言う。その子だけがつまらないと思っているのなら、ちょっとした手立てで何とかなる。私は、法則化運動から学んだ「赤鉛筆で薄く書く」なんて支援をよく使うし、問題をノートに書いてやり「これを解きなさいね」なんて支援もよくやる。何をやるかが分かり、どうやるかの道筋が見えれば、まあ、それなりに学んでくれるものだ。何より、私の授業は『学び合い』なので、「どこが分からないの?」と聞いてくれる仲間がいる。

けれど、クラスの中で「授業がつまらない」と思っている子が大半だったら、こうはいかない。一部の子にだけ支援をしたら、他の子も「私も」「僕も」となる。「どこが分からないの?」と聞いてくれる子もいない。

 

だから、まずはクラスの中で「プラスの突破力」を発揮してくれる子が出るような授業をしなければならない。そういう子が「勉強面白い!」「学び合うって楽しい!」と声にも態度にも出してくれて、教員がそれを褒める。そうすると、影響力の高い子も動きだす。その結果、臨界質量を超えて、クラス全体へと波及していく。そうやって集団を動かしていくのである。

じゃあ、「プラスの突破力」を発揮してくれる子が出るような授業って、どんなものなのか。きっと形は無限にあるんだろうけれど、今後は、私なりの考えをまとめていこうと思う。(と言いつつ、面倒になってやらないのがいつものパターン)