自分と同じだから気になる
登場人物1:石木 高男 Takao Ishiki
時々セミナーに参加したり、登壇したり、雑誌に寄稿したりする意識高めの“ちょっと勉強してます”系教員。「最近は教育書より、経営学や心理学の本ばっかり読んでいるなー。もうちょっと教育書も読まないとなー」とか言って、勉強していますアピール。いわば、私の一面みたいな奴。
登場人物2:紺青 真賀里 Magari Konjoh
世の中を斜に構えて見ている“ちょっと変わり者ですみません”系教員。「俺って変態だからさー」とか自分で言って、普通の教員とは違いますからアピール。いわば、これまた私の一面みたいな奴。
石木:「いやあ、この前参加したセミナー、よかったよ」
紺青:「興味ないな」
石木:「本当によかったんだって。新しい教育観を見つけたような気がするね」
紺青:「“ような気がするって”それって、絶対見つけてないから。
見つけたなら、見つけたって言えよ。それが何かも言えよ」
石木:「授業に向けての大きなヒントを得たんだよ」
紺青:「だったら、具体的に何を得て、その結果、どういう授業をしたのかを言えよ」
石木:「自分の授業のことだけじゃなくて、苦しんでいる同僚を助けることも考えなきゃいけないんだよ」
紺青:「だから!苦しんでいる同僚を助けるために具体的に“何をどうやったのか”を言えよ。そして、その結果も言えって」
石木:「今は言えないけれど、これからもずっと模索し続けていくことだけは、続けていきたいんだよ」
紺青:「一生模索してろよ。見つからないだろうけど」
石木:「そういうことを言うのは、自分を変えたくない人なんだよ」
紺青:「そういうことを言うのは、変えるほどの自分を持っていない奴だよ」
石木:「これからは、新しいものに挑戦できる人間じゃないと、生きていけない時代になる。自分のクラスの子供たちを、そういう人間に育てたいだろう?」
紺青:「生きていけないって、どうして分かるのさ。お前は予言者かよ」
石木:「あらゆるデータから紐解くと、それが分かるんだよ」
紺青:「お前は紐解いてないだろう。紐解いた人の話を聞いて、そう思っているだけに過ぎない。」
石木:「そうやって現状維持を続けていくから、学校は変わらないのさ。学校が変われないのは、教師が変わりたくないからなんだよね。ま、自戒だけど」
紺青:「でた!自戒!!自分で“自戒”とか言う人のうち99%は、自分を戒めてないから。『お前はどうなんだよ』って突っ込まれたくない時に使う自己防衛の言い訳だろ」
石木:「なんでさっきからそんなに突っかかるんだよ。俺のこと嫌いなのかよ」
紺青:「嫌いに決まっているだろう」
石木:「そうだよな、俺も嫌いだよ。俺とお前は正反対だもんな」
紺青:「ハズレだよ、正反対なんかじゃないよ」
石木:「え?」
紺青:「俺とお前は正反対なんじゃなくて、同じなんだよ。同じだから気になるし、同じだから腹が立つ」
石木:「俺とお前が同じ?」
紺青:「そうだよ。自分が大した教員じゃないことは分かっている。だけど、今の仕事に満足できない。だから、ちょっと変わったキャラクターを演じている」
石木:「俺は、勉強しているけれど、勉強に飽きたふり・・・」
紺青:「俺は、勉強したいけれど、勉強に興味がないふり・・・」
石木:「じゃあ、どうやったら満足できるんだよ」
紺青:「そんなこと知らないよ」
石川:「知らないのかよ」
紺青:「知るわけないだろう」
石木:「まあ、そうだよな。お前は満足できない悔しさを、クールなふりをしてごまかしているんだもんな」
紺青:「そんなにはっきり言うなよ」
石木:「でも、逃げた自分を隠すために、斜に構えて、分かったふりをしているんだもんな」
紺青:「やめてくれよ」
石木:「だから、少しでも具体的に動いている俺が余計に腹立たしいんだもんな」
紺青:「やめろって」
石木:「逃げても何にもならないって本当は分かっているんだろう?」
紺青:「本当にやめろって」
石木:「まあ、確かに同じだな。俺も、勉強したふりだけじゃ何にもならないって分かっているもんな」
紺青:「どうすればいいんだろうな」
石木:「そうだなあ」
紺青:「・・・・・・・。」
石木:「・・・・・・・。」
無言の二人。その静けさの間に流れ込むように、子供たちの声が聞こえてくる。
それは、笑い声のようでもあり、何かを議論しているようでもある。
石木:「認めるしかないんだろうな」
紺青:「認める?」
石木:「そう。ダメな自分を認めるしかない」
紺青:「ダメな自分・・・」
石木:「自分は自分が思うほど、良い先生じゃなかったって認めるしかない」
紺青:「そんなことは分かっていたよ」
石木:「俺だって分かっていたよ。でも、認めてはいなかった」
紺青:「心のどこかで、まだ諦めてなかった?」
石木:「認めると諦めるは違うよ。認めたとしても、諦めなくていいじゃないか。ダメな自分でも、やれることはある」
紺青:「やれることか」
石木:「そう。ダメだと認めて、そのあとに何をするか、だよ」
紺青:「子供たちに言っていることと同じだな」
石木:「同じ?」
紺青:「そうだよ。できないことは、悪いことじゃない。できない状態から何をするかが重要なんだって。今日も子供たちに言って聞かせたよ」
石木:「お前、斜に構えたふりをしつつ、子供にはそんな熱いこと語ってるのかよ?うわ、寒!!」
紺青:「熱いとか、寒いとか、どっちだよ」
石木:「“暑”いじゃなくて、“熱”いだよ!まあ、どっちでもいいけど」
紺青:「教員が、子供たちの前でかっこつけなくて、どうするんだよ」
石木:「そりゃそうだな」
紺青:「ダメだと認める、か」
石木:「それは、お前には簡単だろ?ダメなところばっかりだから」
紺青:「お前が言うなよ」
石木:「もちろん、自戒を込めて」
紺青:「でたよ、自戒!絶対込めてないだろ!」